気づきの種が、思索の木となり、やがて知の森となる。
日々の中に、静かに芽吹く気づきを。
今回は、こちらのひと粒をお届けします。
「村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。
金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。
時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。
(中略)
人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。」日本放送協会,NHK出版. NHK 100分 de 名著 宮本常一『忘れられた日本人』 2024年 6月 [雑誌] (NHKテキスト) (pp.39-40). NHK出版.
民俗学者・宮本常一のフィールドワークの原点には、
父・善十郎から託された「十か条」があったといいます。
それは、旅の心得でありながら、人生を歩むための哲学でもあります。
初めて訪れた土地では、高いところに登って全体を見渡し、
目立つものを確認し、時間があれば歩いてみる。
その土地の食べものを味わい、人の見のこしたものを見る。
そして焦らず、自分の道をしっかり歩く。
思えば、旅とは、場所を移動することではなく、
「見る力」「感じる力」「立ち止まる勇気」を取り戻すことなのかもしれません。
新婚旅行で訪れたイタリアの夏の日を思い出します。
欲張りな私たちは、朝から晩まで歩き続け、夕暮れには高台に登って街を見下ろしました。
その土地の名物を食べ、風に包まれながら、ただ世界を見渡した。
あのとき、「人の見のこしたもの」を見ていたのだろうか。
いい旅だったと、今でも思う。
これからもそんな旅がしたいし、子どもにも、そんな旅をしてほしいと願う。
🌱今日のひと粒
あせることはない。
できるだけ歩き、人の見のこしたものを見るようにせよ。
その中に、きっと大事なものがある。

