【第一回】変化のはじまりを共に感じる

―妊娠 私たち夫婦に起きた小さな出来事―

妊活の終わりが見えなくて、少し疲れていました

妊活を始めて、そろそろ一年が経とうとしていた頃のことです。
排卵日を気にしてスケジュールを立てたり、毎月の検査薬の結果に一喜一憂したりする日々に、少しずつ疲れがたまっていました。

陽性反応が出た日は、もちろんうれしかったのですが、すぐに素直に喜べたかというと、そうではなかったように思います。
このまま順調に進むのか、また期待してがっかりすることになるのではないか。
そんな不安が、喜びと同時に心に浮かんできました。

妊娠を望んでいたはずなのに、心の準備はまだ追いついていなかったのだと思います。


伝えることは、自分の気持ちと向き合うことでもありました

その夜、私はスマホのビデオをこっそり回しました。
大げさな演出をしたかったわけではなく、何か節目のような気がして、記録に残しておきたかったのだと思います。
寝室で、いつもと変わらない夜の空気の中で、その日の出来事を夫に伝えました。

夫は驚いたような表情を浮かべつつも、落ち着いた様子で、私と同じように慎重な姿勢を見せてくれました。
はしゃぎすぎないその反応に、私は少し安心したのを覚えています。

うれしさと戸惑いが交差するような、不思議な夜でした。


変わらない日常の中に、新しい前提が加わりました

翌日も、その次の日も、生活が劇的に変わったわけではありません。
仕事の予定や友人との約束、いつもの家事に追われる日々の中で、ふと「妊娠しているかもしれない」という前提を思い出すような感覚でした。
まだ現実感がないまま、それでも、ふたりの間には確かに変化が生まれていたと思います。

病院に行くタイミングを軽く相談したり、これからのスケジュールを確認したり。
そんな小さなやりとりの中で、気持ちも少しずつ追いついてきました。


今振り返ると、あの静かな喜びが心に残っています

妊活中は、すれ違いや不安、焦りもありました。
それでも、ふたりで向き合ってきた時間があったからこそ、妊娠という出来事が静かに胸に響いたのだと思います。

ドラマのような劇的な展開はありませんでしたが、私たちらしい、静かで穏やかな始まりでした。
あのときの控えめな喜びは、今も心の中にしっかり残っています。

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